“一晩だけ預かる”を断れず保護猫を受け入れた34歳女性の部屋を埋めた「終わらない出費」

「明日の朝には迎えに来るから」

麻衣は、その言葉を信じた。三十四歳。独身。ワンルームで一人暮らし。猫は好きだったが、飼ったことはなかった。頼んできたのは昔の友人で、泣きそうな声をしていた。

「病院に連れていくまで、今夜だけでいいの」
「うち、ペット禁止なんだよね」
「お願い、麻衣しか頼れないの」

困っている相手に“今夜だけ”と言われると、人はたいてい長さを見誤る。

「……一晩だけだよ」

段ボールに入った子猫は小さく、静かで、いかにも可哀想だった。その時点で、麻衣の負けは半分決まっていた。

「“一晩だけ”って言葉は、だいたい帰り道を持ってない。」

翌朝、友人は来なかった。

昼に連絡すると「ごめん、もう少しだけ」。次は「里親が決まるまで」。その次には既読が遅くなり、やがて返信自体が消えた。

麻衣は仕方なく餌を買い、トイレ砂を買い、ケージを買った。
最初は数千円だった。だが猫は風邪をひき、病院代が出た。ワクチン、検査、爪とぎ、脱走防止の柵。ひとつ払うたびに、次の必要が顔を出した。

「こんなにかかるの……?」

部屋は狭くなった。
給料日前にはカードを切った。
さらに保護団体に相談したところ、今度は「この子も一緒に預かれませんか」と言われた。

断れなかった。
一匹なら、二匹も同じだと思った。

そこから出費は“たまに痛い”ではなく、“毎月終わらない”に変わった。

「断れない人間の部屋には、請求だけが律儀に住みつく。」

深夜、麻衣はレシートを並べたまま床に座っていた。
餌、砂、病院、ケージ、消臭剤。どれも大した額じゃない顔をして、合計だけが容赦なかった。

「私、何やってるんだろ……」

助けたかったのは本当だった。
でも本当だからといって、金も部屋も時間も勝手に湧くわけじゃない。

猫は悪くない。
友人だけを責めても足りない。
麻衣が見落としていたのは、可哀想だと思った瞬間ほど、自分の限界を先に数えなきゃいけないってことだった。

「情は、引き受けた数だけ請求になる。」

やるべきだったのは、情だけで預かることじゃない。
最初の時点で、期限と引き取り条件をはっきり決めるか、保護団体や病院につなぐべきだったってことさ助けるってのはな、自分ひとりで抱えることじゃない。
終わりの決まってない善意は、だいたい暮らしのほうから先に削っていくんだ。

※この記事は、社会で起こりうる問題への注意喚起を目的として構成した創作です。特定の人物・団体・出来事を示すものではありません。