「え、ほんとに46歳なんですか?」
亜弥は、その言葉を何度も見ていた。四十六歳。離婚歴あり。一人暮らし。SNSに上げる写真は、明るさを上げて、輪郭を少し削って、肌をなめらかにしていた。最初は少し整えるだけのつもりだった。
ところが、加工した写真ほど反応が良かった。
「20代に見える」
「若すぎる」
「その年齢でそれはすごい」
欲しい言葉は、たいてい人を慎重にはしない。
亜弥はやがて、加工後の顔のほうを本当の自分みたいに扱い始めた。婚活アプリの写真も全部それに変えた。
「会えばわかるでしょ。別人ってほどじゃないし」
そう思う人間は、だいたい会う前の想像力だけ都合よく切っている。
「褒め言葉ってやつは、鏡より加工アプリを信用させる。」

最初の二人は、会ってすぐ態度が変わった。
一人は笑顔のまま早口になった。もう一人はコーヒーを半分残して、「急用が」と言って帰った。亜弥は腹が立った。
「失礼すぎるでしょ」
だが三人目の男は、もっと冷たかった。
待ち合わせの店で、亜弥の顔を見るなり一瞬黙り、席についてからスマホを開いた。画面には、アプリに載せた亜弥の写真があった。
「これ、あなたですよね」
「そうですけど」
「……ずいぶん違いますね」
声は穏やかだった。穏やかなぶんだけ、言い逃れの余地がなかった。
「写真写りの問題で」
「ここまで来ると、写真写りじゃなくて別の話ですよ」
亜弥は喉が詰まった。男は怒っていなかった。ただ、最初から騙された側の顔をしていた。
その表情がいちばん痛かった。
「盛った顔は出会いを増やすが、会った瞬間に信頼を減らす。」

帰宅して、亜弥は洗面台の鏡の前に立った。
スマホの中の自分は、相変わらず若かった。だが鏡の中の自分は、ちゃんと四十六歳だった。悪くない顔だった。ただ、最近ずっと見ていなかった。
「私、何を売ってたんだろ……」
若く見せたかったのは顔だけじゃない。年齢も、離婚歴も、今の寂しさも、全部うまく切り取って、都合のいい自分だけを差し出したかったのだ。
婚活で見られるのは、顔の出来より、最初に信用できるかどうかだった。そこを自分で削っていたのだから、冷たく返されても文句は言えなかった。
「盛った顔は、信頼まで盛れない。」

やるべきだったのは、若く見せることじゃない。
会った時に「ちゃんとこの人だ」と思ってもらえる写真を出すことだったってことさ。
見栄は入口を広げるが、信用は入口でしか作れない。
婚活ってのはな、好かれる前に、まず嘘くさく見えないことが大事なんだ。
※この記事は、社会で起こりうる問題への注意喚起を目的として構成した創作です。特定の人物・団体・出来事を示すものではありません。
