元夫の養育費が2年止まった35歳シングルマザーが生活費を補うために始めた「やってはいけない」バイト

「今月も、入ってない……」

美咲はスマホの入金画面を見たまま、小さく息を吐いた。三十五歳。小学生の息子を育てるシングルマザー。元夫の養育費は、もう二年も止まっていた。

最初の頃は連絡した。電話もしたし、メッセージも送った。だが返事はなく、そのうち番号まで変わった。

昼はスーパーのレジ。夜は家で内職。それでも家賃、給食費、電気代は順番に来る。暮らしってやつは、事情を聞いて待ってくれたりしない。

「あと三万あれば回るのに……」

その“あと少し”がいちばん危ない。だから求人サイトで見つけた「荷物を受け取るだけ・高日給」の文字に、美咲は指を止めた。

「一件八千円……」

安い。だが、追い詰められた人間には、その安さが妙に現実的に見える。

「苦しい時ほど、“簡単に稼げる”って言葉はやけに親切な顔をする。」

最初の仕事は、本当に受け取るだけだった。

指定の時間に荷物を受け取り、あとで来る男に渡す。中身は見ない。名前も聞かない。そういう決まりらしかった。

「これなら……」

美咲は少し安心した。二回目はスマホ。三回目はタブレット。四回目には、送り先の名義が自分ではなく、見知らぬ高齢者の名前になっていた。

「これ、大丈夫なんですか」

電話で聞くと、相手の男は笑った。

『心配しすぎ。みんなやってるから』

その“みんな”ほど、信用しちゃいけない言葉もない。

決定的だったのは五回目だった。玄関のチャイムを鳴らしたのは宅配業者ではなく、警察だった。

「美咲さんですね。少しお話を」

荷物の受取先に使われていた名義は、詐欺被害に遭った高齢者のものだった。

「私、ただ受け取っただけで……」

その言い訳は、たいてい遅い。

「“これくらい”で踏み込んだ場所が、あとでまとめて足を取る。」

事情聴取の帰り道、美咲は駅前のガラスに映った自分を見た。疲れていた。泣いてはいなかった。ただ、言い逃れのきかない顔をしていた。

「子どものためだったのに……」

そう口にして、自分で違うと思った。子どものためなのは本当だ。だが、それを言い訳にして、怪しい近道を選んだのも自分だった。

帰宅すると、息子が言った。

「ママ、遅かったね」

その一言がいちばんきつかった。守るために働いたはずなのに、守る相手に顔を上げにくくなっていた。

美咲は台所でしばらく立ち尽くした。足りなかったのは金だけじゃない。困った時に、まともな助けを探す余裕も足りなかったのだ。

「近道は、急ぐやつから道をなくす。」

やるべきだったのは、怪しいバイトに飛びつくことじゃない。
養育費の不払いは役所や弁護士会の相談窓口に持ち込み、生活費は公的支援と昼の仕事の延長で立て直すべきだったってことさ。
苦しい時ほど、楽な話より面倒でも筋の通った助けを選ぶんだよ。
そうしないと、子どものための焦りが、子どもの居場所まで危うくする。

※この記事は、社会で起こりうる問題への注意喚起を目的として構成した創作です。特定の人物・団体・出来事を示すものではありません。